私論・池波正太郎文学

時代小説家池波正太郎の文学作品の感想を書くブログです。

炎の武士(角川文庫)

炎の武士には・炎の武士・色・北海の猟人ー間宮林蔵・ごろんぼ佐之助の四作品が収録されている。時代設定としては・炎の武士が戦国時代で・色及び・ごろんぼ佐之助が幕末・新選組関連の作品として書かれている。この三作品は戦国物であったり、新選組関連の作品であまり印象に残らなかったので今回は感想を述べるのは省く事にする。

異色だったのが・北海の猟人ー間宮林蔵で、彼が活躍したのは文化文政年間の江戸時代後期である。幕末や戦国を描いた池波作品は数多くあるが、この黒船が来航する前の江戸時代後期、つまり渡辺崋山だとか高野長英だとかの洋学者が徹底的に弾圧された蛮社の獄の直前に蝦夷及び樺太で活躍した間宮林蔵を描いているのは非常に珍しいのではないか。作品にも書かれているようにこの時代からロシヤの南下政策は始まっており、徳川幕府は早急に蝦夷樺太の防備に努めねばならなかった。

そんな情勢下で茨城の豪農の一人息子だった間宮林蔵は幕府の役人にその能力を見出され、幕府の元で蝦夷及び樺太の探検に勤しんでいく事になる。特に樺太はこの当時、大陸の半島なのか、それとも島なのかが分かっておらず、幕府の国防政策に甚だ障害をきたしていた。そんな幕府の樺太調査命令を受け、間宮林蔵は同僚松田伝十郎と共に特攻精神旺盛な意気込みで樺太へ飛び込んだのだった。

林蔵の行動力は驚異的だ。今と違い、鎖国政策をとっていた日本で育っているのに彼は非常にグローバルな感覚で国境を踏み越えていく。その結果、謎の地である樺太にまで足を伸ばしてしまうのだ。瞠目するとしか言いようがない。池波正太郎氏が描く作品の中で私は生気に溢れているような、勇壮な物語が好きだが、こうした生気に溢れている池波作品には林蔵のようなスケールの大きな人物が主人公である事が不可欠であると思う。常識では括れないような、はみ出す事を恐れない歴史的人物を池波さんにはもっと描いて欲しかったと思うのである。

 

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